店頭の白い台に並んだ、Salomon のトレイルランニングシューズ Speedcross の3足(白、ミント、黒)。2022年に撮影された現行モデルで、本文に出てくる2015年の共同企画の靴とは別のもの

FASHION・・記事内容:約6分

山道を走るための靴を、街で最初に選んだのは誰だったのか

山道を走るための靴が、パリのセレクトショップから、ファッションの世界へ。最初に選んだのが誰かは、はっきりしない。資料に残る出来事をたどりながら、道具が「かっこいい」と見つけ直される過程を覗く。

写真: Jjanhone / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)。2022年撮影の現行モデルで、本文の2015年の靴ではありません。縮小・再圧縮・メタデータ削除あり

山道を走るための靴がおしゃれな人の足元にある。

そんな光景を街で見かけることがある。

ごついソール。細かく刻まれた模様。派手な色の切り替え。どう見ても街を歩くために作られた靴ではない。

それなのになぜかかっこよく見える。

(この靴の正体は、山道を走るための靴、トレイルランニングシューズだ。)

かっこつけて作ったようには見えないものが、いちばんかっこよく見えるのはどうしてだろう。

そう思って、Salomon(サロモン)というブランドの靴について、いくつかの記事を読んでみた。

この記事はそのブランドの紹介ではない。「誰がいつどうやって、この靴をファッションの場所に連れてきたのか」を、資料に残っている範囲でたどってみる話だ。

先に言っておくと、「最初の一人」ははっきりしなかった。

もとは、山と雪のための道具だった

Salomonは、1947年にフランスのアヌシー(Annecy)で生まれた。スキー用品の会社として育ってきたブランドだ。

その後ブーツやスキーなど雪の上の道具を作り、1990年代には登山用の靴も出した。

トレイルランニング用の靴が出てくるのは、2000年代に入ってからだ。トレイルランニングとは山道や林道を走るスポーツのこと。2006年には、Speedcross(スピードクロス)というモデルが登場している。

つまりこの靴は、もともと「ファッションのため」に生まれたものではない。

山を走る人のための道具だった。

声をかけたのは、パリのお店だった

話が動くのは、2010年代の半ばだ。

パリに、The Broken Arm(ザ・ブロークン・アーム)というセレクトショップがある。ファッションブランドを中心に少し尖った品ぞろえで知られる店だ。

Footwear News(フットウェア・ニュース)はこの店から、2015年に、Speedcrossを使った企画の話がSalomonに持ちかけられたと書いている。それがのちに部門になっていく動きのはじまりだったという書き方だ。

Grailed(グレイルド)の記事には少し違う角度の情報がある。店の創業者たちは自分たちもトレイルランナーで、Speedcrossの良さをよく知っていた。そして共同企画を求めたのは店の側だったと書かれている。

ここまでが複数の資料から読み取れることだ。

ひとつ気をつけておきたいことがある。この共同企画の靴が、SpeedcrossなのかSnowcross(スノークロス)なのかは、資料によって書き方が違う。この記事ではどちらかに決めないでおく。

実は、その前にも、試していた

Salomonの側の話も残っている。

2024年の記事の中で、Salomonのフットウェア担当の副社長が、こんなことを述べている。

記事の時点から10〜15年ほど前に最初の兆しがあった。何度か試してみたけれどうまくいかなかった。それでも、2016年にはパリのThe Broken Armや、デザイナーのBoris Bidjan Saberi(ボリス・ビジャン・サベリ)から連絡を受けた、という話だ。

ブランドは何もしていなかったわけではない。ただそのときはうまくいかなかった。

そしてその後の流れの中で語られているのは、ファッション側からの連絡だ。

部門ができる前の、手探りの時期

その2016年に、JP Lalonde(JP・ラロンド)という人が、のちにSportstyle(スポーツスタイル)部門を率いることになる人物として、Salomonに加わっている。

Hypebeast(ハイプビースト)の2021年の記事の中で、Lalondeさんはその頃のことをこう話している。当時はまだ、Sportstyleという取り組みはなかった。The Broken Armとの企画がひとつ、Boris Bidjan Saberiとの企画がひとつ、あっただけだった。そして当時できたことはすでにある靴に色をのせることくらいだった、とも話している。

2017年の春には、Boris Bidjan Saberiのコレクションの中で、Salomonの靴が発表されている。

そして、Footwear Newsによれば、Sportstyleがカテゴリーとして展開されたのは、2018年の秋だ。

資料によって、食い違うところ

調べていてはっきり決められなかったことがいくつかある。

最初にファッション側が取り上げた年。 StockXの記事は、2013年に、The Broken ArmがSpeedcrossを店に並べたと書いている。けれどほかの資料には、2015年の企画を起点とするものがあり、Salomon自身は2016年の連絡を語っている。年がそろわない。この記事では、「2010年代の半ば」としか言えない。

共同企画の靴の名前。 上のとおり、SpeedcrossとSnowcrossで資料が分かれている。

Sportstyleの始まり。 責任者の就任は2016年、カテゴリーとしての展開は2018年ごろというのが、今回確認できた範囲だ。ただ別の資料には、2021年に新しいカテゴリーが始まったと書くものもある。何を指して「Sportstyle」と呼ぶかで、年は変わるのかもしれない。

「ゴープコア」との関係。 Sneaker Freaker(スニーカー・フリーカー)は、2015年の店の動きを、そのころ生まれたばかりだった「ゴープコア」の象徴として書いている。ゴープコアとは登山やアウトドアの道具を、街の服として着る流れのことだ。ただその言葉が先にあって靴が選ばれたのか、あとから言葉が当てはめられたのかはこの資料だけでは分からない。

ここから先は、事実ではなく、私の読み

ここまでは記事に書かれていることだ。ここから先は読んだ私が勝手に考えたことになる。

不思議だと思ったのは、靴を大きく作り変えたわけではなさそうなことだ。

Lalondeさんの話では最初にできたのは、色をのせることくらいだった。それでもこの靴はファッションの場所に並ぶようになった。

もうひとつ気になったのは声をかけた店の人たちが、自分でもトレイルを走る人だったことだ。

もしかしたらその人たちには、この靴が「ファッションになりそうなもの」である前に、「よくできた道具」に見えていたのかもしれない。

もちろんこれは私の想像だ。そう書いた資料があるわけではない。

道具の形はまず何をするためのものかで決まる。山道を走るなら滑らないこと守ること軽いこと。かっこよさはそのあとについてくる。

だとしたら、「かっこつけていないからかっこいい」というより、「かっこつけていない理由が見えるからかっこいい」のかもしれない。

そしてその理由に気づくのは作った側だけとは限らない。

見る側が変わると同じ道具が違うものに見える。

この靴の場合は、少なくとも資料に残っている範囲では、ブランドが試して、うまくいかなかったあとに、ファッション側から声がかかっている。それがすべてではないだろうし、「ブランドは何も狙っていなかった」と言えるわけでもない。

それでも、「誰かがその靴を別の場所に置いてみた」。そこから見え方が変わりはじめたことはなんとなく伝わってくる。

最後に、分かっていること

この靴を街で最初に選んだのが誰なのかは分からなかった。

分かったのは、2010年代の半ばにパリのお店とデザイナーが、この靴に目を向けたことと、Salomon自身が以前の試みのあとに、その連絡を受けたと話していること。

それくらいだ。

けれど山道を走るための靴を見て、「これいいな」と思った誰かがきっといたのだろう。その誰かの目線がいまの景色のどこかに、つながっているのかもしれない。

そう思ってあらためて街の足元を見ると少しだけ違って見える。

今、私の足元も、Salomonのシューズだ。

出典

情報確認:2026年10月

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