COLUMN・・記事内容:約5分
昔の自分に、ふいに会いにいく
昔好きだった漫画や音楽を、大人になってからもう一度覗いてみる。そこに昔とは違うものを感じて、なぜか泣きそうになる。時間が積み重なることで、好きだったものの見え方まで変わっていく感覚を書いてみた。
昔好きだったものを、久しぶりに見る。昔好きだった漫画。昔よく聴いていた曲。子どもの頃に夢中になっていたもの。大人になってからもう一度触れると、「懐かしいな」と思う。それだけなら、まあ普通だ。
でも最近、ちょっと困ったことがある。
昔のものを見ただけで、泣きそうになる。
別に悲しい話じゃない。むしろ、嬉しい話だったりする。
昔好きだったものが、まだ続いている
最近、昔好きだった漫画の紹介番組を見た。その作品の第一話を紹介するような、よくあるダイジェストだ。「ああ、懐かしいな」くらいの気持ちで見ていた。
ところが、主人公が最初の頃の話をしている映像を見ていたら、なんだか泣きそうになった。
いや、待て。いま初めて見たわけじゃない。何度も見ている。内容だって知っている。なのに、なぜか胸にくる。
昔はただ「この話おもしれー」と思って見ていたものが、いま見ると「ああ、ここから始まったんだな」と思う。そして、その先にある長い物語まで一緒に思い出す。
なんというか、**作品の第一話を見ているのに、人生のダイジェストを見せられている感じがする。**そりゃ泣きそうにもなる。
そして、最近もうひとつあった
音楽でも、同じことがあった。
このあいだ、ある歌い手さんの大きなライブの音源を聴いていた。彼女がまだ若くて、世に出てきた頃から知っている。もちろん、ただの一ファンだ。ライブに毎回行っていたわけでもないし、勝手に親戚みたいな顔をしているわけでもない。……いや、ちょっとしているかもしれない。そのくらい、昔から知っている感覚がある。
そんな彼女が大きなステージに立って、大勢のお客さんに感謝を伝えている。それを聴いていたら、なんだか泣きそうになった。
「すごいな」という気持ちもある。「ここまで来たんだな」という気持ちもある。でも、たぶんそれだけじゃない。まだ若かった頃から知っているから、その時間ごと一緒に思い出しているんだと思う。
本人からしたら、「いや、あなた誰ですか」だと思う。それでも、こっちは勝手にちょっと親目線になる。
作品は変わっていない
たぶん、昔の作品や音楽そのものが変わったわけじゃない。変わったのは、自分のほうだ。
昔は主人公の気持ちだけを見ていた。いまは、その周りにいる大人の気持ちも少しわかる。昔は「なんでこの親はこんなことを言うんだろう」と思っていたのに、いま見ると「まあ、親もいろいろあるよな」と思ったりする。
昔はただかっこいいと思っていた曲の歌詞が、いま聴くと妙に刺さる。昔は気にも留めなかった場面で、いまは立ち止まってしまう。生きてきた時間が増えたことで、同じものから拾えるものが増えているのかもしれない。
「懐かしい」だけではない
昔のものを見ると、昔の自分を思い出す。あの頃、何を考えていたのか。何に夢中だったのか。どんな毎日を過ごしていたのか。
でも、それだけじゃない。その頃好きだったものが、そのあとどうなったのかを見ることもできる。好きだった漫画が、長く続いている。好きだった音楽を作っていた人が、いまも活動している。子どもの頃に見ていたものが、いまも誰かに受け継がれている。
そういう「その後」を見ると、なんだか不思議な気持ちになる。時間って、ちゃんと続いているんだなと思う。
大人になると、応援する側の気持ちも変わる
子どもの頃は、自分が楽しむことが中心だった。好きだから見る。面白いから読む。かっこいいから聴く。それで終わりだった。
でも大人になると、「この人、これからどうなるんだろう」と思うようになる。頑張っている人を見ると、「頑張れよ」と思う。昔から知っている人が大きな舞台に立っていると、「よかったなあ」と思う。そして、なぜかちょっと泣きそうになる。
自分でも、**「俺、いつからこんな親戚のおじさんみたいな気持ちになるようになったんだ」**と思う。でも、たぶん悪くない。
好きだったものには、時間が宿る
昔好きだった漫画や音楽には、作品そのものだけじゃなく、自分が過ごしてきた時間もくっついている。だから久しぶりに触れると、作品を見ているようで、自分の過去も一緒に見ている。
その間に、自分も変わった。仕事をするようになった。誰かと暮らすようになった。家族ができた。責任を持つようになった。昔はわからなかったことが、少しわかるようになった。だから同じものでも、昔とは違うところで心が動く。
涙もろくなった理由
最近、涙もろくなったなと思う。
昔なら「いい話だったな」くらいで終わっていたものでも、いまはちょっと危ない。CMでも危ない。子どもの成長ものなんて、もうだいぶ危ない。油断していると、普通に持っていかれる。
でも、これは単に歳を取ったからだけじゃないのかもしれない。長く生きてきたからこそ、「時間が積み重なること」の意味が少しわかるようになった。
昔好きだったものが、いまも続いている。昔から知っている誰かが、大きな場所に立っている。昔の自分が夢中になっていたものを、いまの自分がもう一度見る。そうすると、「ああ、ちゃんと時間って流れてきたんだな」と思う。そして、ちょっと泣きそうになる。
……まあ、いい歳したおっさんが漫画のダイジェストを見て泣きそうになっているのも、なかなか面白いけど。たぶん、これも大人になったということなんだろう。
昔好きだったものは、昔のまま残っている。でも、それを見る自分は変わっている。だからもう一度覗いてみると、昔とは違うものが見える。それが、なんだか面白い。
たまには、泣きそうになってもいいのかもしれない。