
CURIOUS・・記事内容:約4分
ニューヨークの横断歩道のボタンは、1,000個のうち900個が動いていなかった。押しても何も起きないボタンの話
エレベーターの「閉」、横断歩道のボタン、オフィスの温度計。世界には、押しても何も起きないボタンが、思っているより多い。それでも外されずに残っている理由と、押す人をばかにしなくていい理由。
※生成画像
エレベーターに乗って、「閉」のボタンを押す。もう一度、押す。扉はいつもと同じ速さで閉まる。
押したから閉まったのか。押さなくても閉まったのか。たぶん多くの人が一度は考えたことがある。
世界には押しても何も起きないボタンが、思っているより多い。
ニューヨークの横断歩道
2018年、CNNがこうしたボタンについて調べている。
ニューヨーク市の交通局によると市内の横断歩道には、歩行者用のボタンがおよそ1,000個ある。そのうち実際に動いているのは約100個だけだった。
2004年にニューヨーク・タイムズが「ほとんどのボタンは動いていない」と書いたとき、まだ約750個は動いていた。そこからさらに減っていった。
理由は車の多さだ。ボタンが取り付けられたのは、道がいまほど混んでいなかったころ。車が増えて信号どうしを細かく連動させるようになると、歩行者がボタンで割り込むことが、かえって流れを乱すようになった。
信号の仕事は自動の仕組みやセンサーに引き継がれた。でもボタンそのものは外すにもお金がかかる。だから残された。
ボストンやダラス、シアトルにも同じようなボタンがあるという。
ロンドンのボタンは、別の仕事をしている
ロンドンには、6,000の信号がある。ボタンを押すと、「WAIT(お待ちください)」の文字が光る。でもそれで青になるのが早くなるとは限らない。
ロンドン交通局の担当者はこう説明している。青が自動でつく横断歩道もある。それでもボタンを押してもらうのは、目の不自由な人のための音やさわってわかる仕掛けが、ボタンを押したときに動くからだと。
押しても青は早くならない。でも押す意味はある。
アメリカのエレベーターの「閉」
いちばんよく押されるボタン、エレベーターの「閉」はどうか。
アメリカではほぼ確実に効かない、とCNNは書いている。アメリカのエレベーター業界団体の担当者は、はっきりこう答えた。乗っている人が、あのボタンで扉を早く閉めることはできません。
理由は、1990年にできた障害のある人を守るための法律だ。車いすや松葉づえの人が安全に乗りこめるだけの時間、扉は開いていなければならない。決められた時間が過ぎるまで、ボタンを押しても何も起きない。
ボタンが本当に働くのは消防士や点検の人が、鍵や暗証番号を使ったときだけだという。
世界最大のエレベーター会社オーチスの担当者は、こう付け加えている。ボタンで本当に早く閉まるかどうかは建物の決まりや、持ち主の考えで決まる。つまり国や建物によって違う。
日本人は、「閉」をよく押す
日本ではどうか。
日本のエレベーターメーカー日立ビルシステムは、乗りものニュースの取材にこんなことを話している。「閉」は日本人はよく押す。でも海外ではボタンがあっても押さない人が多い。だから、「閉」は「開」ほど大事なボタンではない。
大事なのは「開」のほうだ。駆けこんでくる人のためにとっさに押すボタンだから。日本エレベーター協会の標準では、「開」は左、「閉」は右に置く。メーカーによっては、「開」を大きくしたり緑色にしたりして、押しまちがいを防いでいる。
偽物の温度計
ボタンだけではない。
アメリカの空調の業者の団体の人は、CNNに、オフィスにある「つながっていない温度計」の話をしている。いつも暑い寒いと文句を言う人を静かにさせるために、取り付けられたものだという。
見習いのころ彼はその温度計の調整を頼まれた。どこにもつながっていないのに。理由を聞くと上司たちはあわてて、本人にばらしていないかと聞いてきた。ばらしていないと答えると、上司たちは、知らせないほうがそれらしく調整できると思ったのだと白状した。
空調の専門家の団体の人によると、自分で温度を変えられると感じるだけで、少しの暑さ寒さを我慢できる人もいるそうだ。
押すことは、ばかげていない
こうしたボタンは「プラシーボ・ボタン」と呼ばれることがある。効き目のない偽の薬でも飲むと効いた気がする。あのプラシーボだ。
ハーバード大学の心理学者エレン・ランガーは、「コントロールの錯覚」という考えを広めた人だ。彼女はこうしたボタンを悪くは言わない。何か行動することで、人は状況を自分で動かしている感じを得る。ただ待つだけの人でいるよりそのほうが気分がいい。
ランガーはこうも言っている。「プラシーボ・ボタン」と呼んで、押す人をばかだと思うのは残念なことだ。少なくとも心のための役には立っている。そしてときには本当に効くこともあると。
もう一度、押してみる
次にエレベーターに乗ったら、「閉」を押してみる。
扉が早く閉まったらそのボタンはちゃんと働いている。閉まらなかったら誰かが乗りこむための時間を、ボタンが守っているのかもしれない。
どちらにしても指先は少し落ち着く。それくらいの仕事なら、ボタンにさせておいてもいい気がする。
出典
- CNN「Why the world is full of buttons that don't work」(2018年9月3日)
- 乗りものニュース「エレベーターの『開』は左にある? 知っていれば押し間違えない配置の法則性とは」(2017年11月27日)
情報確認:2026年10月


