金色のケースに、茶色い革ベルトの腕時計。文字盤に「SEIKO Quartz-Astron」と書かれている。ドイツ時計博物館が収蔵する、アストロンの写真

FASHION・・記事内容:約2分

月に5秒しかずれない腕時計が、時計の世界を変えた

1969年12月25日に売り出された、世界初のクォーツ腕時計「クォーツ アストロン」。月に5秒しかずれない精度と、技術の公開が、時計の世界をどう変えたのか。セイコーミュージアムの説明をたどる。

写真: Deutsches-uhrenmuseum / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)。縮小・再圧縮・メタデータ削除あり

腕時計の時刻は少しずつずれていく。

昔はそれがふつうだった。

その常識を根底からくつがえしたのが、1969年12月25日に売り出された1本の腕時計だった。世界はとてもおどろいた。

月に5秒しか、ずれない

セイコーが世界初のクォーツ腕時計(セイコー自身の説明)として売り出したのが、「クォーツ アストロン 35SQ」。発売日は、1969年12月25日。値段は、45万円。当時人気だった自動車の値段に近いとセイコーミュージアムは説明している。

精度は、1日に±0.2秒、1か月に±5秒。

同じころの機械式の腕時計は、1日に数秒から数十秒ずれるのがふつうだったという。

手首に入る、水晶の時計

クォーツは水晶に電気を流すと決まった速さで振動する性質を使う。この振動を数えて時間を測る。

水晶の時計そのものは、1927年にアメリカで発明されている。でも最初のものは大きかった。セイコーが、1958年ごろに作った放送局用のクォーツ時計は、大きなロッカーほどの大きさだった。腕時計にするにはこれを、30万分の1の大きさにしなければならなかったと同館は書いている。

セイコーは、1960年に、1964年の東京オリンピックの公式計時を引き受けることを決めた。そのための時計づくりと一緒に水晶の時計の研究が進んだ。1966年に懐中時計、1967年に腕時計の試作ができ、「この10年のうちに商品にする」という方針が決まった。

機械の競争から、ぬけ出した

機械式の時計はより正確にするために部品を速く動かす方向へ進んでいた。でもそれは歯車がすり減りやすくなる道でもあった。

クォーツはその競争の外に出る方法だったと同館は説明している。

アストロンの中では音叉の形をした水晶が、1秒に8192回、振動していた。秒針は電池の節約のために、1秒に1回だけ動く作りだった。

技術を、公開した

セイコーは研究で取った特許の技術を公開した。同館はこれがきっかけになってクォーツ腕時計が一気に広まったと書いている。小さくて、電気をあまり使わず、衝撃に強い音叉型の発振器などは、世界の標準になった。

アストロンはアメリカのスミソニアン協会に常設で展示されている。日本でも、2014年に日本機械学会の「機械遺産」に認定された。

手首の上の1秒がずっとそろっているのはあたりまえではなかった。

今では当たり前になったクォーツ腕時計。その裏側にはこんな歴史があった。

出典

情報確認:2026年10月

次の一杯