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雨がほとんど降らないヒマラヤの村は、冬の川の水を高さ20mの「氷の塔」に凍らせて、春まで取っておく。
インド北部のラダックでは、冬の川の水を凍らせて円すいの氷の塔をつくる。電気もポンプも使わない。雨の少ない土地の、春の水不足への答えだ。
写真: Crb43 / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)。再圧縮・メタデータ削除あり

インドの北の端、ヒマラヤの山あいにラダックという土地がある。チベット仏教の寺が点在する、乾いた高地だ。冬になると、ここに白い円すいが立つ。高さは建物の数階ぶん。雪山のかけらのように見えるが、人がつくった氷だ。
地元では「アイス・ストゥーパ(氷の仏塔)」と呼ばれている。この土地に多い仏塔の形に似ているからだ。
雨がほとんど降らない土地
塔が立つフィヤン村は標高およそ3,500m。1年の雨は50mmほどで、東京の30分の1にも届かない。
畑の水は山の雪と氷河がとけた水がたよりだ。困るのは春だ。種をまく4月と5月に川の水がいちばん細くなる。氷河がどっととけて水が増えるのは6月の半ばから。今度は多すぎて鉄砲水になることもある。
冬のあいだも水は流れている。ただ寒すぎて畑には使えず、そのまま下流へ流れていく。
橋の下に残っていた氷
思いついたのはラダックの技術者ソナム・ワンチュクだ。ある年の5月、橋の下に氷が残っているのに気づいた。日が当たらなければ氷は春の終わりまでもつ。
けれど村の畑ぜんぶに日よけはかけられない。そこで氷を縦に積むことにした。平らな氷は日を受ける面が広い。円すいにすれば、たくさんの水をためたまま日に当たる面を小さくできる。
2013年の冬、ワンチュクはラダックの中心の町レーで高さ6mの試作品をつくった。凍らせた水は約15万リットル。日よけなしで翌年の5月18日まで残った。
電気を使わない噴水
仕組みは単純だ。上流の川から地中にパイプを引いてくる。水は高いところから低いところへ流れるので、ポンプはいらない。
パイプの先を空に向けて立てると、その勢いで水が噴き上がる。氷点下の夜の空気の中で、しぶきは落ちる前に凍る。それが少しずつ積もって円すいが育っていく。
春になると塔はゆっくりとける。その水をタンクに集めて、植えたばかりの苗に少しずつ送る。

フィヤン村では2015年、川から2.5kmのパイプを引いて本格的な塔に挑んだ。目標は高さ30m。できあがったのは高さ20m、水にして約200万リットルの塔だった。
先に「氷をためた」人
氷で水をためる考えには先輩がいる。退職した技術者のチェワン・ノルフェルだ。
1987年の冬、ノルフェルは標高4,000mのプクツェ村で日陰の谷を石でせき止めた。冬の水をそこで凍らせておき、春にとかして使う。調べた研究者によると、畑に水を引ける日が20〜40日のびた。同じような池は12か所に広がり、ノルフェルは「アイスマン」と呼ばれた。
ただ、どれも高い山の上にある。手入れが続かず使えなくなった池も多い。ワンチュクの塔は村のすぐそばに建てられる。そこが大きな違いだった。
村どうしで高さを競う
いまでは氷の塔は村の冬の行事にもなっている。2019年からは村どうしで塔をつくって競う大会が開かれている。2019年に12基、2020年には25基ほどが建った。

いいことばかりでもない
下流のペイ村からは反対の声も上がった。11月から川の水を塔に回されると、自分たちの畑の地下水がたまらない。そう訴えて、役所が水の引き込みをやめるよう命じたこともある。
「塔の3分の1は空気と茂みとパイプだ」と、ためられる量を疑う技術者もいる。最近は雪の少ない冬も増えた。氷の塔は万能の答えではない。
それでも、水が足りない季節に向けて冬の寒さをためておく。その発想は、乾いた高地に暮らす人々の知恵そのものだ。
日本にも、冬の氷を氷室(ひむろ)にしまって夏まで残した時代がある。山の日陰に掘った、氷の貯蔵庫だ。寒さは昔から蓄えられるものだったのかもしれない。
氷の柱を暮らしの一部にしている人々が、ヒマラヤの高地にいる。世界には、私たちが知らないその土地ならではの知恵がある。
出典
- Scroll.in「As Himalayan glaciers disappear, Ladakhi farmers search for the ideal artificial substitute」(Janaki Lenin、2015-05-21)
- The Quint / India Climate Dialogue「Ice Stupas Aren’t Cutting Ice with Some Farmers in Ladakh」(Athar Parvaiz、2018-06-29)
- Amusing Planet「Ice Stupas: These Artificial Glaciers Are Solving Water Crises in The Himalayas」(2018-05-25)
- Wikipedia「Ice stupa」(試作の年・量、大会、2019〜2020年の基数。出典は The Wire・Forbes India・Tribune India など)
情報確認:2026年10月


