暗い木のカウンターに、氷とレモンの入ったハイボールのジョッキがひとつ。背景は温かい茶色の無地。AIで作った絵で、実際の写真ではない。

FOOD・・記事内容:約4分

ハイボールは、おじさんの酒を若い人の二杯目に変えた。6分の1まで縮んだウイスキーを、ジョッキが救った

2007年、日本のウイスキーの市場は、ピークのころの6分の1まで縮んでいた。若い人1,000人に聞くと、答えは「古くさい」「飲みにくい」「飲む場所がない」。解決のかぎは、半世紀前の飲み方と、ジョッキにあった。

※生成画像

居酒屋で乾杯のビールのあと。「次ハイボールで」。いまではごくふつうの一言だ。

でも、20年ほど前、ウイスキーは「おじさんがバーで、ひとりでちびちび飲む酒」だった。そこから若い人の二杯目になるまでにはある会社の、かなり本気の作戦があった。

6分の1まで縮んだ市場

日本のウイスキーがいちばん飲まれたのは、1983年ごろだ。高度成長を支えた会社員たちが、安いウイスキーから始めて給料が上がるたびに、一段上の銘柄へ移っていった。

ところがその人たちが年をとり、お酒の種類も増えた。2007年、ウイスキーの市場は、ピークのころの6分の1ほどにまで縮んでいた。

サントリーで角瓶を担当していた塚原大輔さんは、中小企業向けのサイト「J-Net21」の取材に、当時の危機感をこう話している。いまのウイスキーは、50〜60代の男性がひとりで飲む酒になっている。その世代が引退したら、需要はかぎりなくゼロになってしまう。

若い人1,000人に聞いた

2008年、塚原さんたちはまず理由を探った。20〜30代の男女およそ1,000人に、ウイスキーのイメージを聞いた。

返ってきた答えは厳しかった。

答えは、昔の飲み方にあった

手がかりは思わぬところにあった。

東京・銀座の古い酒場をのぞくと、たくさんの客がウイスキーを飲んでいた。若い人も年配の人も男も女も。飲み方はほとんどがウイスキーのソーダ割り、ハイボールだった。

ハイボールは新しい飲み方ではない。昭和30年代に一度はやった飲み方だ。でも、アンケートで出てきた「古くさい」「飲みにくい」は、その店では誰も気にしていないように見えた。

ソーダで割るからアルコールは強くない。さっぱりしていて料理にも合う。ビールのようにお腹にたまらない。

これならいけるかもしれない。

ジョッキで出す

2008年、作戦が始まった。

まず店ごとに味がばらばらにならないように、「正統派」の作り方を決めて飲食店に教えて回った。

  1. ジョッキに氷をたっぷり入れる
  2. 生のレモンを搾る
  3. 角瓶を、ジョッキの3分の1から4分の1ほど注ぐ
  4. 冷えたソーダを注ぐ

社内では、昔の飲み方を知る先輩から「ジョッキで飲むとは邪道だ」という声もあった。昔は細いグラスで飲むものだったからだ。

それでも塚原さんたちはジョッキにこだわった。がっつり飲める感じ。ビールと同じ器で気軽に頼める感じ。若い人にはそれがいいと考えた。

同じ年、ハイボール専用のサーバーを作って店に置き、テレビのCMも始めた。

1万5,000店から、14万店へ

2008年の終わりに、角ハイボールを出す店は1万5,000店になった。

2009年には缶の角ハイボールが発売され、出す店は1年で4倍の6万店に。2010年の終わりには、トリスのハイボールも合わせて14万店にまで広がった。野球場では、背中に背負うハイボールのサーバーまで登場した。

ウイスキー全体の売れ行きも、2009年は前の年を10%あまり上回った。前の年を超えたのは11年ぶり。2010年はさらに16%増えた。

国税庁のデータでは、2014年のウイスキーの販売量は、いちばん少なかった2008年の1.5倍を超えていた。

家で作るときに

せっかくなので家で作るときのことも。

サントリーの研究所は缶のハイボールを開発したとき、店のハイボールを調べて、2つのことを大事にしたと書いている。ひとつはしっかりした炭酸。炭酸が弱いとハイボールの爽快さがなくなる。もうひとつはほんのり香るレモン。レモンが強すぎるとウイスキーの味が隠れてしまう。

それから冷たさ。サントリーがすすめる作り方では、氷をグラスいっぱいに入れ、レモンを軽く搾り、、ウイスキーを注いだら冷えたソーダを静かに注いで、最後に軽く混ぜる。缶のハイボールも缶ごとしっかり冷やして、氷いっぱいのグラスに注ぐとさらにいいそうだ。

二杯目の場所

ビールのあとに何を飲むか。そこは、長いあいだ空いていた席だったのかもしれない。

その席にすっと座ったのは新しいお酒ではなく、半世紀前の飲み方だった。古くさいと言われたものも器を変えて、出す場所を変えればまた新しくなる。

今夜の二杯目は少し冷えたジョッキで。

出典

情報確認:2026年10月

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