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ハイボールは、おじさんの酒を若い人の二杯目に変えた。6分の1まで縮んだウイスキーを、ジョッキが救った
2007年、日本のウイスキーの市場は、ピークのころの6分の1まで縮んでいた。若い人1,000人に聞くと、答えは「古くさい」「飲みにくい」「飲む場所がない」。解決のかぎは、半世紀前の飲み方と、ジョッキにあった。
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居酒屋で乾杯のビールのあと。「次ハイボールで」。いまではごくふつうの一言だ。
でも、20年ほど前、ウイスキーは「おじさんがバーで、ひとりでちびちび飲む酒」だった。そこから若い人の二杯目になるまでにはある会社の、かなり本気の作戦があった。
6分の1まで縮んだ市場
日本のウイスキーがいちばん飲まれたのは、1983年ごろだ。高度成長を支えた会社員たちが、安いウイスキーから始めて給料が上がるたびに、一段上の銘柄へ移っていった。
ところがその人たちが年をとり、お酒の種類も増えた。2007年、ウイスキーの市場は、ピークのころの6分の1ほどにまで縮んでいた。
サントリーで角瓶を担当していた塚原大輔さんは、中小企業向けのサイト「J-Net21」の取材に、当時の危機感をこう話している。いまのウイスキーは、50〜60代の男性がひとりで飲む酒になっている。その世代が引退したら、需要はかぎりなくゼロになってしまう。
若い人1,000人に聞いた
2008年、塚原さんたちはまず理由を探った。20〜30代の男女およそ1,000人に、ウイスキーのイメージを聞いた。
返ってきた答えは厳しかった。
- 古くさい(おじさんの酒、うんちくの酒、会社の上下関係の酒)
- 飲みにくい(アルコールが強い料理に合わない、とっつきにくい)
- 飲む場所がない(まわりが飲んでいない、1軒目の店で見かけないバーには行かない)
答えは、昔の飲み方にあった
手がかりは思わぬところにあった。
東京・銀座の古い酒場をのぞくと、たくさんの客がウイスキーを飲んでいた。若い人も年配の人も男も女も。飲み方はほとんどがウイスキーのソーダ割り、ハイボールだった。
ハイボールは新しい飲み方ではない。昭和30年代に一度はやった飲み方だ。でも、アンケートで出てきた「古くさい」「飲みにくい」は、その店では誰も気にしていないように見えた。
ソーダで割るからアルコールは強くない。さっぱりしていて料理にも合う。ビールのようにお腹にたまらない。
これならいけるかもしれない。
ジョッキで出す
2008年、作戦が始まった。
まず店ごとに味がばらばらにならないように、「正統派」の作り方を決めて飲食店に教えて回った。
- ジョッキに氷をたっぷり入れる
- 生のレモンを搾る
- 角瓶を、ジョッキの3分の1から4分の1ほど注ぐ
- 冷えたソーダを注ぐ
社内では、昔の飲み方を知る先輩から「ジョッキで飲むとは邪道だ」という声もあった。昔は細いグラスで飲むものだったからだ。
それでも塚原さんたちはジョッキにこだわった。がっつり飲める感じ。ビールと同じ器で気軽に頼める感じ。若い人にはそれがいいと考えた。
同じ年、ハイボール専用のサーバーを作って店に置き、テレビのCMも始めた。
1万5,000店から、14万店へ
2008年の終わりに、角ハイボールを出す店は1万5,000店になった。
2009年には缶の角ハイボールが発売され、出す店は1年で4倍の6万店に。2010年の終わりには、トリスのハイボールも合わせて14万店にまで広がった。野球場では、背中に背負うハイボールのサーバーまで登場した。
ウイスキー全体の売れ行きも、2009年は前の年を10%あまり上回った。前の年を超えたのは11年ぶり。2010年はさらに16%増えた。
国税庁のデータでは、2014年のウイスキーの販売量は、いちばん少なかった2008年の1.5倍を超えていた。
家で作るときに
せっかくなので家で作るときのことも。
サントリーの研究所は缶のハイボールを開発したとき、店のハイボールを調べて、2つのことを大事にしたと書いている。ひとつはしっかりした炭酸。炭酸が弱いとハイボールの爽快さがなくなる。もうひとつはほんのり香るレモン。レモンが強すぎるとウイスキーの味が隠れてしまう。
それから冷たさ。サントリーがすすめる作り方では、氷をグラスいっぱいに入れ、レモンを軽く搾り、、ウイスキーを注いだら冷えたソーダを静かに注いで、最後に軽く混ぜる。缶のハイボールも缶ごとしっかり冷やして、氷いっぱいのグラスに注ぐとさらにいいそうだ。
二杯目の場所
ビールのあとに何を飲むか。そこは、長いあいだ空いていた席だったのかもしれない。
その席にすっと座ったのは新しいお酒ではなく、半世紀前の飲み方だった。古くさいと言われたものも器を変えて、出す場所を変えればまた新しくなる。
今夜の二杯目は少し冷えたジョッキで。
出典
- J-Net21(中小企業基盤整備機構)「『サントリーウイスキー角瓶』低迷するウイスキーを復権させた秘策」(2011年)
- サントリー「角ハイボール缶」(研究所の開発の話)
- PRESIDENT Online「酒場の旬はレモンサワーとジントニック」(国税庁「酒のしおり」の数字を引用)
情報確認:2026年10月


