黒い器に、すりおろした淡い緑のわさびが、こんもりと盛られている。右に、わさびのついた鮫皮のおろし板。奥に小皿。

FOOD・・記事内容:約3分

わさびの辛みは、すりおろした瞬間に生まれる。約400年続く、湧き水の畑の話

わさびの辛みは、すりおろして細胞がこわれたときに生まれる。大阪大学とエスビー食品の発表、農林水産省やJETROの資料から、辛みの仕組みと、静岡で約400年続く湧き水の「水の畑」をたどる。

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わさびはすりおろしたときに辛くなる。

あのツーンとくる辛みはおろす前の根の中にはまだない。

辛みは、こわれた細胞から生まれる

辛みの主役はアリルイソチオシアネートという成分。ところがこれは根の中に最初からあるものではない。

もとになるのはシニグリンという別の成分。そこへミロシナーゼという酵素が出会うと分解されて、辛みの成分になる。出会うのはすりおろしたり噛んだりして、細胞がこわれたときだ。

大阪大学とエスビー食品が本わさびの中で、これがどこにあるかを調べた学会発表がある。見えたのはミロシナーゼが、水や養分の通り道に近い場所にあるらしいということ。熱で酵素を止めるとシニグリンは全体に広がって見えた。

辛みの成分は揮発しやすい。だから直接測るのがむずかしく、もとのシニグリンと酵素のほうを調べたという。

おろし方の話にもつながる。JETRO(日本貿易振興機構)の解説にはこうある。きめ細かくすりおろすほど、こわれる細胞が増えて、辛みが強くなる。

そしてチューブのわさびは、ホースラディッシュなどを加えて調えてあるものが多い。本わさびの辛みとは別のものだ。

約400年前、沢のわさびを、集落の池へ

わさびは日本の山あいの沢に自生していた。日本列島で独自に進化した植物だと、農林水産省は書いている。

静岡市の有東木(うとうぎ)という集落に、こんな言い伝えがある。約400年前、沢の源流に生えていたわさびを、集落の「井戸頭」という池に植えた。それが栽培の始まりだ。

1607年、徳川家康が駿府城に入ったとき、わさびを献上された。その味をほめたとも伝わる。

山の斜面に、石の畑

いまの静岡のわさび田は見た目からして、ふつうの畑ではない。

山あいの沢を斜面に沿って階段のように切り開く。そこへ石を積み水を流す。農林水産省の資料によると、明治25年ごろに生まれた「畳石式」という方法が、生産量を大きく伸ばした。伊豆市では明治の半ばごろにこの方法が生まれたという。

肥料はできるだけ使わない。湧き水の中の養分で育てる。強い日差しから守るために、ヤマハンノキという木を植える。わさびに合うのは年間を通して、10〜15℃ほどの水だという。

石を積んだ階段状のわさび田に、清らかな水が流れる。まわりに背の高い木。AIで作った絵で、実物の写真ではない。
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ゆるやかな水の流れはハコネサンショウウオなどの、めずらしい生き物のすみかにもなっている。

2018年3月、「静岡水わさびの伝統栽培」は、世界農業遺産に認定された。

辛みには、もうひとつの顔がある

アリルイソチオシアネートには、細菌やカビを抑える働きがある。JETROの解説はそのため、抗菌や防カビの商品にも使われていると書いている。

わさびには畑で育てる種類もある。「畑わさび」だ。涼しい山の中の畑で育てる。食べるのはおもに葉と茎。いちばん多く作っているのは岩手県で、全国の6割を占める。

根をおろして食べる「沢わさび」は湧き水の田で育つ。こちらは静岡と長野の2県で、9割を超える。同じわさびでも育つ場所で食べる部分も変わる。

次に、すりおろすとき

辛みはおろすときに生まれる。そう思うと小さなおろし金も少しちがって見える。

山の水の冷たさと石の段々と、400年。それが皿のすみのひとかけらになる。

次にわさびをおろすときはゆっくり細かく。出てくる辛みを少し待ってみる。

出典

情報確認:2026年10月

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