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わさびの辛みは、すりおろした瞬間に生まれる。約400年続く、湧き水の畑の話
わさびの辛みは、すりおろして細胞がこわれたときに生まれる。大阪大学とエスビー食品の発表、農林水産省やJETROの資料から、辛みの仕組みと、静岡で約400年続く湧き水の「水の畑」をたどる。
※生成画像
わさびはすりおろしたときに辛くなる。
あのツーンとくる辛みはおろす前の根の中にはまだない。
辛みは、こわれた細胞から生まれる
辛みの主役はアリルイソチオシアネートという成分。ところがこれは根の中に最初からあるものではない。
もとになるのはシニグリンという別の成分。そこへミロシナーゼという酵素が出会うと分解されて、辛みの成分になる。出会うのはすりおろしたり噛んだりして、細胞がこわれたときだ。
大阪大学とエスビー食品が本わさびの中で、これがどこにあるかを調べた学会発表がある。見えたのはミロシナーゼが、水や養分の通り道に近い場所にあるらしいということ。熱で酵素を止めるとシニグリンは全体に広がって見えた。
辛みの成分は揮発しやすい。だから直接測るのがむずかしく、もとのシニグリンと酵素のほうを調べたという。
おろし方の話にもつながる。JETRO(日本貿易振興機構)の解説にはこうある。きめ細かくすりおろすほど、こわれる細胞が増えて、辛みが強くなる。
そしてチューブのわさびは、ホースラディッシュなどを加えて調えてあるものが多い。本わさびの辛みとは別のものだ。
約400年前、沢のわさびを、集落の池へ
わさびは日本の山あいの沢に自生していた。日本列島で独自に進化した植物だと、農林水産省は書いている。
静岡市の有東木(うとうぎ)という集落に、こんな言い伝えがある。約400年前、沢の源流に生えていたわさびを、集落の「井戸頭」という池に植えた。それが栽培の始まりだ。
1607年、徳川家康が駿府城に入ったとき、わさびを献上された。その味をほめたとも伝わる。
山の斜面に、石の畑
いまの静岡のわさび田は見た目からして、ふつうの畑ではない。
山あいの沢を斜面に沿って階段のように切り開く。そこへ石を積み水を流す。農林水産省の資料によると、明治25年ごろに生まれた「畳石式」という方法が、生産量を大きく伸ばした。伊豆市では明治の半ばごろにこの方法が生まれたという。
肥料はできるだけ使わない。湧き水の中の養分で育てる。強い日差しから守るために、ヤマハンノキという木を植える。わさびに合うのは年間を通して、10〜15℃ほどの水だという。

ゆるやかな水の流れはハコネサンショウウオなどの、めずらしい生き物のすみかにもなっている。
2018年3月、「静岡水わさびの伝統栽培」は、世界農業遺産に認定された。
辛みには、もうひとつの顔がある
アリルイソチオシアネートには、細菌やカビを抑える働きがある。JETROの解説はそのため、抗菌や防カビの商品にも使われていると書いている。
わさびには畑で育てる種類もある。「畑わさび」だ。涼しい山の中の畑で育てる。食べるのはおもに葉と茎。いちばん多く作っているのは岩手県で、全国の6割を占める。
根をおろして食べる「沢わさび」は湧き水の田で育つ。こちらは静岡と長野の2県で、9割を超える。同じわさびでも育つ場所で食べる部分も変わる。
次に、すりおろすとき
辛みはおろすときに生まれる。そう思うと小さなおろし金も少しちがって見える。
山の水の冷たさと石の段々と、400年。それが皿のすみのひとかけらになる。
次にわさびをおろすときはゆっくり細かく。出てくる辛みを少し待ってみる。
出典
- 農林水産省「静岡水わさびの伝統栽培 ― 発祥の地が伝える人とわさびの歴史 ―」(世界農業遺産)
- JETRO(日本貿易振興機構)農林水産・食品「わさび」
- 静岡県「有東木わさび田」
- 藤本里佳ほか(大阪大学・エスビー食品)「MALDI-MSIによる本わさび中の辛味成分の分布の検討」(日本質量分析学会 発表)
情報確認:2026年10月


