1917年1月19日の日付印がある、古いウェスタンユニオンの電報用紙。宛先はメキシコシティのドイツ公使館で、本文は5けたほどの数字がびっしり並んでいる。

HISTORY・・記事内容:約3分

数字が並んだだけの電報1枚が、アメリカを第一次世界大戦に引き入れた。ロンドンの「ルーム40」が読み解いた

1917年、ドイツの外務大臣がメキシコに送った暗号電報。「メキシコがテキサスなどを取り戻すのを了解する」。それを解読したイギリスは、暗号を解いていることを隠しながら、どうアメリカに見せるか考えた。

写真: アメリカ国立公文書館(NARA)/ Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。縮小あり

冒頭の写真は、1917年1月19日の日付が押された、1枚の電報だ。宛先は「メキシコシティのドイツ公使館」。本文はただ数字が並んでいるだけ。

この数字の列をロンドンの小さな部屋で読み解いた人たちがいた。そしてそれが、アメリカを第一次世界大戦に引き入れることになった。

中立のアメリカ

1914年に始まった第一次世界大戦に、アメリカは加わっていなかった。アメリカ国立公文書館によると、1916年、ウィルソン大統領は「彼は私たちを戦争に巻きこまなかった」というスローガンで、2期目の選挙に勝っていた。

ドイツの暗号電報

1917年1月、ドイツの外務大臣アルトゥール・ツィンマーマンは、メキシコにいるドイツの公使に暗号の電報を送った。

国立公文書館が公開している解読された内容はこうだ。

「2月1日から無制限の潜水艦作戦を始める。それでもアメリカを中立にとどめるよう努める。うまくいかなかった場合はメキシコに同盟を提案する。ともに戦い、ともに講和する。資金を援助する。そしてメキシコがテキサス、ニューメキシコ、アリゾナの失った土地を取り戻すことを私たちは了解する」

さらに日本にも加わるよう誘ってほしいと書かれていた。

「ルーム40」

イギリスの軍事ニュースサイト『フォーシズ・ニュース』によると、ドイツは開戦の年に、大西洋を渡る自国の海底ケーブルをイギリス海軍に切られていた。そのため外交の連絡には、中立国のスウェーデンやアメリカの回線を使うしかなかった。

その通信をロンドンの海軍本部の暗号解読班が見ていた。「ルーム40」と呼ばれた部署だ。

イギリスの出版社ヒストリー・プレスの記事によると、そこには、古典学者や牧師や編集者など、ひと癖ある学者たちが集められていた。1月30日ごろ、そのうちの2人、牧師のウィリアム・モンゴメリーと、編集者出身のナイジェル・ド・グレイが、ツィンマーマンの電報を解読した。

すぐには、見せられない

解読はしたがイギリスは困った。

これをアメリカに見せれば、自分たちがドイツの暗号を解いていることが、ばれてしまうかもしれない。しかも、アメリカの回線を通る通信を見ていたことまで知られてしまう。

そこでイギリスはメキシコで動いた。フォーシズ・ニュースによると、メキシコシティにいた工作員が、電報局の職員を買収して、メキシコに届いた電報の写しを手に入れた。これなら、「メキシコで手に入れた」と言える。

冒頭の写真はメキシコに届いた形の電報だと、国立公文書館は説明している。

大統領の「なんてことだ」

2月24日、イギリスは電報をウィルソン大統領に渡した。

本当にドイツが送ったものなのか。疑う声もあった。そこでアメリカの外交官が解読の場に立ち会って本物だと確かめた、とアメリカの雑誌メンタル・フロスは書いている。

電報を読んだウィルソンは、「なんてことだ」と何度も声をあげたという。3月1日、電報の内容はアメリカの新聞に大きく載った。

4月6日、アメリカ議会はドイツに宣戦布告した。メキシコはドイツの誘いに乗らなかった。

たった1枚の電報

暗号の歴史家デイヴィッド・カーンはこう書いている。「ひとつの暗号解読が、これほど大きな結果をもたらしたことはない」

数字が並んだだけの紙1枚。それを読み解いた人たちと、それを相手にどう見せるか考えた人たち。戦争の行方はその静かな部屋で少し変わった。

出典

情報確認:2026年10月

次の一杯