夜の地球の上を回る、金色の太陽電池パネルを広げた人工衛星。下には街の灯りが点々と見える。AIで作った絵で、実在の衛星の写真ではない。

SCIENCE & TECHNOLOGY・・記事内容:約3分

スマホの地図の青い点は、相対性理論で毎日直されている。直さなければ、1日に約10キロずれる

GPSの衛星の時計は、地上より1日に約38マイクロ秒進む。速さで遅れ、重力で進む、相対性理論のずれだ。1977年、最初の原子時計の衛星は、そのずれを疑う声があったため、補正を「あとからスイッチを入れられる」形で打ち上げた。

※生成画像

スマホの地図を開くと青い点が、いま立っている場所に現れる。数メートルのずれもなく。

あの点の裏では毎日、アインシュタインの相対性理論が働いている。むずかしい理論の話ではなく、ずれを直すための、とても実用的な仕事として。

宇宙から届く「時刻」

GPSの衛星は、地上からおよそ2万キロの高さを回っている。基本は24機。どの場所からも、いつでも4機以上が見えるように並んでいる。

それぞれの衛星には原子時計が積まれている。衛星は自分の位置と正確な時刻を電波で送り続けている。

スマホやカーナビはその電波を受けとって、届くまでにかかった時間を比べる。電波は光と同じ速さで進むから時間がわかれば、衛星までの距離がわかる。いくつもの衛星からの距離を組み合わせると、自分の場所が決まる。

アメリカのオハイオ州立大学の天文学者、リチャード・ポッグの解説によると、数メートルの精度を出すには、時刻を20〜30ナノ秒(1ナノ秒は10億分の1秒)の正確さで知る必要がある。

宇宙の時計は、進み方が違う

ところが衛星の時計は、地上の時計と同じようには進まない。

ひとつめの理由は速さだ。衛星は時速およそ1万4,000キロで動いている。特殊相対性理論によると速く動く時計はゆっくり進む。その分、衛星の時計は1日に約7マイクロ秒(1マイクロ秒は100万分の1秒)遅れる。

ふたつめの理由は重力だ。一般相対性理論によると重力の強い場所ほど、時間はゆっくり進む。地上より重力の弱い、高い空にいる衛星の時計は、、そのぶん速く進む。1日に約45マイクロ秒。

合わせると衛星の時計は、地上より1日に約38マイクロ秒進む。

ほんのわずかに思える。でも、38マイクロ秒は、3万8,000ナノ秒だ。必要な正確さの1,000倍以上ある。

ポッグはこれを直さなければ、2分ほどでずれが出始め、1日に約10キロずつ誤差が積み重なっていくと書いている。地図の青い点は、1日で隣の町まで行ってしまう。

1977年、疑いながら打ち上げた

この補正にはひとつ面白い話がある。

GPSの仕組みに詳しい物理学者ニール・アシュビーが、2003年の論文に書き残している。

1977年6月23日、アメリカは試験用の衛星「NTS-2」を打ち上げた。セシウム原子時計を宇宙へ運んだ最初の衛星だ。

宇宙の時計には相対性理論の補正がいるはずだ。それはわかっていた。でもずれがどれくらいになるのか。進むのか遅れるのか。その向きさえはっきりしていなかった。

それどころか相対性理論のずれなんて、本当に組みこむ必要があるのかと疑う人もいた。

そこで技術者たちは、時計の周波数を調整する装置を衛星に積んで、あとからスイッチを入れられるようにした。本当に理論どおりにずれていたら、そのときに補正をオンにする。

打ち上げのあと時計をおよそ20日間、補正なしのまま動かして地上の時計と比べた。

測ったずれは一般相対性理論の予想とほぼ同じだった。差は時計の精度の範囲に収まった。宇宙を回る時計で、理論がおよそ1%の正確さで確かめられたことになる。

いまは、最初から遅らせてある

いまのGPSの衛星の時計は打ち上げる前に、地上で少しだけ遅く進むように調整してある。宇宙に上がったとき、ちょうど地上の時計と同じ速さに見えるように。

そしてスマホやカーナビの中の小さなコンピューターが、残りの細かいずれを毎回計算で直している。

ハーバード大学の物理学者たちが建物の塔の上と地下で、重力が光の振動数を変えることを確かめたのは1960年。アメリカ物理学会の記事はこの効果が、いまでは貨物船や戦闘機の航路を支えていると書いている。

青い点の、ちょっと先

相対性理論は遠い宇宙の話だと思われがちだ。光の速さで飛ぶロケットやブラックホールの話。

でも本当は、毎朝の通勤の地図の中で静かに働いている。

次に地図を開いたとき、青い点が正しい場所にいることを、、少しだけ不思議に思ってみる。あの青い点は宇宙で少しだけ速く進む時計を、毎日ていねいに直し続けた結果なのだ。

出典

情報確認:2026年10月

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